「ようだ」「そうだ」「らしい」における中国语母语话者の日本语学习者の学习状况―谢莹

「ようだ」「らしい」「そうだ」における中国語母語話者の日本語学習者の学習状況Theacquisitionof‘youda'‘rasii'‘souda'byChinesenativespeakerslearningJapanese

謝瑩（国際理解教育領域）

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はじめに

日本語の類義表現の使い分けは外国人の日本語学習者にとって困難である。「ようだ」「らしい」「そうだ」の使い分けもその中の一つである。日本語では、比況を表すのは「ようだ」、間接な根拠による推測は「らしい」、直接目で観察し、物事の様子を表す時は「そうだ」を使用するというふうに使い分けているのに対して、中国語では、すべて「好像」で表すことができる。こういった違いによって、中国語母語話者の日本語学習者は誤用が生じやすいという問題点がある。

だが、従来の研究では、日本語学の観点から、「ようだ」「らしい」と様態表現「そうだ」の相違についての先行研究が多くなされてきた。中日対照の観点から、中国語への訳し方や「好像」との対応関係などについての先行研究も多い。しかし、中国国内の日本語学習者の実際の習得状況に関する研究が未だに少ない。

本論文は中国国内の日本語学習者がどんな場面で誤用が生じやすいのか、それに誤用を防ぐために日本語教育の現場でどんな対策を取るべきなのかを明らかにする。2

先行研究

これら各語の用法の違いについての研究、特に「ようだ」と「らしい」に関しては、数多く研究されてきた。柏岡（1980）、森田（1980）、柴田（1982）、寺村（1984）、早津（1988）、中畠（1990）、三宅（1995）、野林（1999）、菊池（2000）などがある。様態表現「そうだ」に関する研究は菊池(2000)や泉原(2007)などがある。これらの研究を以下のようにまとめることが出来る。

①「ようだ」のみ使用可能の場合ⅰ直接観察（体験）し、推論を加える余地なく、観察（体験）に密着した一体のものとして観察対象の様子を述べる場合、ⅱ婉曲用法として使用する場合、ⅲ比況用法として使用する場合。②「らしい」のみ使用可能の場合ⅰ「直接の観察に密着して対象の様子を述べる」わけではなく、推論を伴ったり伝聞に基づいたりして判断内容を述べる場合、ⅱ属性描写を表す場合、ⅲ伝聞を表す場合。③様態表現「そうだ」のみ使用可能の場合様態表現「そうだ」は以下の二つの条件をともに満たす場合に使われる。ⅰ話し手がある可能世界を思い描いて述べる。ⅱ現実がそのような可能世界を思い描かせるような性質をもっている。3調査

3.1調査方法及び目的

本論文は二つの調査を行った。一つは予備調査として、応用的習得状況、あるいは実際に文章を作成する時に生じる誤用を考察するため、インターネットを通し、日本語で書かれているブログから誤用文を収集し分析する方法である。もう一つの方法は文法的習得状況を明らかにするため、中国国内の日本語を専攻としている大学生を対象とするアンケート調査である。3.2予備調査3.2.1調査方法

本調査は中国で非常に人気のあるブログ「新浪ブログ」で、「ようだ」「らしい」「そうだ」をそれぞれキーワードとしてブログを検索し、検索結果の中から中国人の日本語学習者が書いたものだと判断される日記を取り上げ、その中から誤用文を収集するという方法で進めてきた。

3.2.2調査結果

インターネットから収集した誤用文を分析することにより、以下のことが分かる。ⅰ接続の誤用

「形容動詞な＋ようだ」の「な」の脱落による誤用が一番目立つ。それに続き、「名詞の＋ようだ」の「の」の脱落、「ような＋名詞」の「な」と「の」の混乱、「動詞句＋かのように」の「の」の脱落、「動詞否定形＋ようだ」と「名詞の＋ようだ」の混乱、「らしい＋の＋名詞」という不必要な「の」の挿入などによる誤用が見られる。ⅱ使い方の混乱様態表現「そうだ」と様態表現「ようだ」の使い方の混同による誤用が目立つ。この調査を通し、接続の間違いが誤用を生ずる大きな原因だと言える。また、この調査結果はアンケートを作成する際の参考にもなる。

3.3アンケート調査

3.3.1調査対象中国南京師範大学の日本語専攻の2年生52人と3年生54人、合計106人

3.3.2調査期間2008年12月25日から2009年1月10日まで3.3.3アンケートの構成

アンケートは「○×問題」6問、「穴埋め問題」１９問、「記述式問題」1問という三つの部分に分かれている。場面に応じる適切な表現が使用出来るかどうかを考察するため、様々な場面を設定した。「○×問題」に関しては、まず適切（○）か不適切(×)かを判断してもらい、不適切だと判断された問題に対して、適切な文に訂正してもらうという形式である。「穴埋め問題」に関しては、Ａ、Ｂ、Ｃという三つの選択肢から正解だと思う答えを一つ選択してもらう問題である。「記述式問題」は前述した二つの問題の補助として、「ようだ」「らしい」「そうだ」の使い方について普段思い付いたことや、難しいと思う文法点などを自由に書いてもらう問題である。

3.3.4アンケートの考察する文法点

考察内容

様態表現「ようだ」と推量表現「らしい」の混同様態表現「ようだ」と様態表現「そうだ」の混同婉曲表現「ようだ」と推量表現「らしい」の混同推量表現「ようだ」と推量表現「らしい」の混同「ようだ」「らしい」「そうだ」三者の違い推量表現「そうだ」と推量表現「らしい」の混同比況表現「ようだ」と「らしい」の属性描写の混同

様態「そうだ」の否定 過去形

否定形過去形

推量「らしい」の過去形推量「らしい」の否定形形容動詞／名詞＋「ようだ」形容動詞／名詞＋「らしい」「ような」＋名詞

接続

「～そうに」＋動詞

動詞辞書形、タ形＋「かのように」「よい」＋「そうだ」形容動詞＋「そうだ」

予備調査でまとめた誤用が生じやすい文法点と、筆者が自らの日本語学習経験を通して予測した中国語母語話者の日本語学習者にとって間違いやすい文法点を考察する文法項目とし、本アンケートを作成

した。3.43.4.1

調査の結果及び分析

「○×問題」の結果及び分析

○×問題の各問題の学年別正解率

注：○×の判断が正しくても、訂正が間違っていると不正解とする。

「○×問題」の設問文は以下の通りである。

１（２（

）（机の上に置いてあるジュースを見）（二人で道を歩いていて）あ、あの人倒れるようだね。＿＿＿

て）このジュースは冷えているらしい。＿

３（）（洋服の店にいます。服を試着して

ちょっとサイズが小さいので、店員に）小さいらしいですから、やめておきます。＿４（）これは大学のビルですか。教会らしいですね。＿＿＿＿＿＿＿５（）そのりんごはおいしいようだったが、まずかった。＿＿＿＿＿＿６（

）天気予報によると、午後から雨が降るらしくない。＿＿＿＿＿＿

この結果を分析し、以下の文法点は中国語母語話者の日本語学習者にとって誤用が生じやすい文法だと分かる。

①様態表現「そうだ」と様態表現「よう

だ」との接続の混同。

誤用例：「冷えていようだ」

②様態「そうだ」の「動詞連用形＋そう

だ」の接続の間違い。

誤用例：「冷えていりそうだ」③二年生の日本語学習者にとって、様態

表現「ようだ」と推量表現「らしい」の使い分けが難しい。3.4.2穴埋め問題の結果及び分析

穴埋め問題の各問題における正解率と各選択肢の選択状況を表にまとめた。（表略）設問文はページ数の都合上、省略する。穴埋め問題を通し、以下の文法点は中国語母語話者の日本語学習者にとって誤用が生じやすい文法だと分かる。④「～すぎそうだ」の誤用「服が私に小さすぎそうだ」を選択した人が71.69％も占めているため、「～すぎそうだ」は中国人の日本語学習者が間違いやすい文法点だと分かる。これは母語中国語の干渉による誤用だと思われる。

⑤「動詞句＋かのように」の「か」の脱落

「動詞句＋のように」というふうに間違える学生が多い。これは母語中国語の干渉による誤用だと思われる。⑥「ようだ」「らしい」「そうだ」三者の混同

「イライラしていて、やめたタバコを吸

ってしまいそうだ」と「酒が飲みたくて死

にそうだ」は正文であるが、下線の所に「しまうようだ」や「死ぬようだ」など「ようだ」と「らしい」を選択した学習者が多い。以下のことが分かる。ⅰ「制御不能になることへの恐れや心配を表わす」文の場合、様態表現「ようだ」、「らしい」、様態の「そうだ」の使い分けが学習者にとって混乱が起きやすい。ⅱ様態表現「ようだ」と仮想世界を表す「そうだ」の用法は誤用が生じやすい。

⑦「形容動詞＋ようだ」の接続の間違いによる誤用

「好きのようだ」「好きようだ」という誤用が多く見られる。

⑧推量表現「ようだ」と推量表現「らしい」の混同による誤用⑨「形容動詞＋らしい」、「名詞＋らしい」の接続の間違い「便利だらしい」、「便利ならしい」、「独身だらしい」というような接続の間違いによる誤用が三年生によく見られる。「形容動詞＋らしい」の接続は定着しにくい文法点だと分かる。

⑩様態表現「そうだ」と推量表現「らし

い」の混同

「夜空を見ると、明日はいい天気になりそうだ」は正文であるが、「なるらしい」を選択した学習者が多い。その原因は「らしい」と「そうだ」の判断根拠の相違を把握できないことによる用法の混同だと思われる。

「ようだ」の比況用法と「らしい」の属性描写の混同

「彼は姿を見ると女性のようだ」は正文であるが、「女性らしい」と選択した学習者が全員の中18人もいる。特に三年生がこのような誤用が多く見られることを見ると、「ようだ」の比況用法と「らしい」の属性描写の使い分けは中国人の日本語学習者にとって定着が良くない文法点だと分かる。

3.4.3記述問題の回答分析学習者が「ようだ」「らしい」「そうだ」の相違についての回答を以下のようにまとめることができる。

ⅰ「ようだ」――<様子や感覚による主観的推測を表す>ⅱ「らしい」二年生：「伝聞を根拠にする推測」三年生：「そのものの特徴を持っている」（属性描写）共通意見：「客観事実による推測」

ⅲ「そうだ」――「外見から見る様子による推量」

以上の回答を分析してみると、「ようだ」と「らしい」を区別する基準が主に主観的か客観的か、確かな根拠があるかどうかというふうに認識されているのが多い。様態の「そうだ」の使い分けポイントが<外から見て判断する>ことと、ほとんどの学習者がこういうふうに認識しているのである。学習者が様態「そうだ」の用法を狭く捉えていることは「そうだ」の「制御不能になることへの恐れや心配を表わす」用法と「仮想世界を表す」用法に関する問題が正解率が低い原因であると考えられる。4

中国国内の日本語教育現場への提案中国語母語話者の日本語学習者が「ようだ」「らしい」と様態表現「そうだ」を学習する際に誤用が生じやすい文法点を明らかにした上、中国国内の日本語教育現場でこれらの指導について以下のような提案を試みる。

4.1様態表現「ようだ」と推量表現「らしい」の混同に関して

アンケート調査の第三部分の記述問題では、学習者が「ようだ」と「らしい」の用法をほとんど漏れがなく書けたものの、実際に応用する時に混乱が起きたことを見ると、学習者は文法自体の習得が特に問題がないが、実際の場面で適切に応用できないという問題点がある。従って、それぞれの用法の文法説明をする際に、場面設定

のある例文を取り上げながら、文法を説明

すると良い。

4.2前述した定着が良くない文法点を繰り返して練習させる。

4.3接続の間違いによる間違いが多く見られたため、定着するように練習させる。4.4様態表現「そうだ」の用法を指導する際に、<外見から見る様子による推量>という用法に止まらず、他の用法も取り上げるべきである。5

今後の課題

本稿は「ようだ」「らしい」様態表現「そうだ」を調査内容として研究を進めてきたが、中国国内の日本語学習者にとって誤用が生じやすい文法点を明らかにしたほか、日本語教育現場での対応についても私見を提案した。だが、同じく類義表現のグループに入る「みたいだ」と「だろう」について、本研究では考察していない。この二つの語の習得状況や指導し方の研究は今後の課題にする。

参考文献（主なもののみ）：泉原省二（2007）『日本語類義表現使い分け辞典』研究社

菊池康人（2000a）「「ようだ」と「らしい」－「そうだ」「だろう」との比較も含めて」『国語学』第51巻1号菊池康人（2000b）「いわゆる様態の「そうだ」の基本的意味－あわせて、その否定各形の意味の差について」『日本語教育』107号砂川有里子（代表）（2005）『教師と学習者のための日本語文型辞典』くろしお出版

李光赫（2002）「中国語の状況把握系推量表現について－「ようだ」「らしい」との対照を中心に－」『国語研究』41号（東北大学大学院文学研究科）明治書院企画編集部編（1997）『日本語誤用分析』明治書院